独房で自殺をはかったルキーニが天国と地獄の間の煉獄(れんごく)で裁判を受ける場面からこの物語は始まる。
ルキーニは皇后殺害の理由を叫ぶ。
「皇后本人が望んだんだ!」
誰も知らない真実を。
私が大昔に初めて「エリザベート」を観劇した時はこの冒頭に提示される大事なテーマがよく理解できず、ただただ話の展開に目を奪われるばかりでした。
「黄泉の帝王」って何者?
「愛と死の輪舞(ロンド)」って何が?
???
初めての観劇後の感想はこれだけだった…
今回の宝塚歌劇団月組公演でまた「エリザベート」が再演されたが、貴重なチケットをようやくゲットして初めて観劇される方に私のように頭の中が「???」とならないようにこの物語を客観的に解説したいと思います(笑)
古くからのヅカファンの方にもあらためて気がつきにくい場面の細かい所を知ってもらいたい。
では本当にシシーは暗殺されたのか?
物証は「ナイフ」
エリザベートは結婚後、さっそく自殺を計ろうとする。
名曲「私だけに」につながる場面で自殺未遂に使われたこのナイフはその時トートの手に渡り、後の場面でもシシーはトートにこのナイフを見せられ、そして最後の暗殺に使われた。
結婚の時に使っていたナイフをその後現実的にはルキーニが暗殺に使うために入手できるはずはなく、これは「黄泉の帝王トート」の魔法のひとつ。
結局シシーは自殺の時に使ったナイフで死んだ。
ちなみにマダムヴォルフのコレクションもトートの差し金。
娼婦に混じって黒天使が踊り、黒天使の一人であるマデレーネは冷たい目で皇帝をあざ笑う。
では「黄泉の帝王」とは何者か?
簡単に言えば「死神」
でも深く掘り下げれば「どんな人間でも持っている悲しい時に死にたい気持ち」ではないだろうか。
「死への誘惑」をエリザベートが感じた時にトートは必ず現れるのだ。
つまり「エリザベート」はシシーが死にたくなるような動機を数々の証人達が再現する物語。
物証と動機はそろった。
もうひとつの側面から「エリザベート」は演じられる。
それは死神トートがシシーの幼い時の綱渡りの転落事故から甦らせてしまった事から始まる物語。
シシーの眼差しに胸を焦がし、その愛を勝ち得るまで追いかけることを決意する。
シシーに愛されるようになりながら、シシーを殺さなくてはいけない。
だから「愛と死の輪舞」
そしてトートは何度もシシーを黄泉の世界に誘うが、死にたがるシシーを完全な愛を求めて拒む場面もある。
この辺が宝塚的で男性の私にはよくわからないのだが…
やがて「夜のボート」の場面でシシーは「ずっと誰かが待っている」ことに気づく。
今までは自分の死だけにこだわってきたシシーだが、ようやくトートの愛に気がついたということか。
そして最後の証人はこの芝居をみている観客あなた自身。
事件を目撃する。
シシーはレマン湖のほとりでルキーニに襲われるが、その一撃目を持っていた傘でかわしている。
もしかしたらシシーは逃げられたのではないか?
軽傷で済んだ可能性もある。
その時シシーはトートの声を聞く。
そして無抵抗になり、ルキーニに深々と刺される。
さんざん死へ誘いながら「まだ愛していない」「死は逃げ場ではない」と拒む答えは「シシー自身が選ぶ自殺」ではなく、相思相愛になって「他人に殺してもらえる自殺」だった。
名作「エリザベート」
まあ、男性的にはこんな解釈にようやくたどり着いたのですが皆さんはいかがでしょうか。
(笑)